【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第24回】
ぼくの師匠は瀧川鯉昇。
弟子の欲目などではなく、落語の名人だ。
飄々とした空気を纏った軽さのある師匠の落語は、人生の厳しさや辛さを描くことなく、涙や人生の教訓もなく、感動させることもない、ただ穏やかな爆笑だけをお客さんにそっとプレゼントする極上の至芸である。
こんなことができるのは選ばれた人間だけ。
いちばん難しい手法でありながら、それを誰にも気づかせず、努力も悟られず、いつもニコニコしているのだから、これはもう仙人の域である。
贅沢を好まず、お酒が好きで、いつも面白いことを考えている、面白いことしか考えていない仙人。
師匠のユーモアや落語に異業種のクリエイターが魅了されファンになるのは当然の成り行きだ。
何本か映画にも出演している。
それもみんな師匠のファンである監督からの熱烈なオファーである。
元々役者になりたくて上京した師匠にとってもふたつ返事で快諾したことだろう。
その師匠が2021年4月放送のWOWOWドラマ『川のほとりで』にゲスト出演した。
監督は平山秀幸さん。
平山監督は師匠の大ファンで2010年の映画『必死剣鳥刺し』でも師匠を起用した。
弟子であるぼくも何度か酒席にご一緒したことがある。
やさしくていつもニコニコしている監督だ。
似た者同士なのだ。
・小泉今日子がホームレスに!? コメディ『川のほとりで』に瀧川鯉八の師匠も…
東京乾電池の綾田俊樹さんとベンガルさんの演劇ユニット「綾ベン企画」の「川のほとりで3賢人」をベースにしたホームレスコメディ。
ドラマでの3賢人は綾田さんベンガルさんと、岸部一徳さん。
とにかく名優揃いだ。
岸部一徳さん演じるホールレスの娘に臼田あさ美さん。
その臼田さんの結婚相手が師匠の役柄。
その年の差婚に戸惑いながらも娘の結婚を認め祝福するという回だった。
大洗の食品加工会社の経営者という設定の師匠が手土産に自社のカニ蒲鉾を持参し岸部さんに挨拶にくるのだが、登場シーンからして役者瀧川鯉昇の存在が際立っている。
とにかく師匠の絵力が一流の俳優さんに引けを取らない。
立つとか、歩くとかの基本動作は簡単そうでとっても難しいと思うのだが、師匠の立ち姿は無理なく背筋がピンとしており品がある。
師匠の落語にも作り物ではない品の良さがある。
非常に映像向きだと思った。
岸部さんと師匠が川のほとりで座りながら話している長いシーンの空気感は、どんな俳優さんが束になっても敵わないものだ。
ホームレスの方々の時間の流れにスッと寄り添うという難しい役を師匠は押しつけがましくなくやってのけた。
役者としても特別な才能があることをふんわり証明した。
再放送やDVD化されたら、落語やドラマや映画のファンにもぜひご覧いただきたい。
ちなみに、師匠が撮影現場に着てきた私物の愛用のジャケットは、ホームレスの衣装のジャケットとまったく同じものだったそう。
なんだか、とっても、最高。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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