【鯉八の映画でもみるか。】夏の映画とキラッキラの青春『子供はわかってあげない』
【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第25回】
今年の夏も暑い。
灼熱だ。
一段と、めしがうまい。
まだまだヤングだ。
ただ、汗が臭い。
汗の第一波が臭くなってきた。
調べると、加齢によるものだそう。
汗臭くないことだけには自信があったし、そうあろうと努めてきたのに。
そろそろただのグッドオールドマンだ。
・【鯉八の映画でもみるか。】ぼくの師匠「瀧川鯉昇という役者」
夏の映画館はいい。
自転車で風になったまではいいが、信号に引っかかったらオーマイゴット、滝のような汗と一緒にやる気のすべてが流れていく。
残るのは臭みのみ。
ゾンビのような足取りで映画館に辿り着き、座席に腰を下ろしてクーラー様の偉大なる力とコーラ様の偉大なる強炭酸により息を吹き返す。
そうまでして映画を見に行く必要があるのかと問われれば、もちろん答えはNOだ。
クーラー効いてる家でコーラを飲めばいいだけの話だ。
ではなぜ出掛けるのか。
バカなことをしたくなるだけ。
映画だってそもそもみんなバカになってバカなことをして作ってるだけだ。
利口なら映画なんて作らないだろう。
バカになったほうが生きてる感じがするというだけだ。
そんな人が作ったものを見たいのだ。
落語だってそうだ。
バカになりたくてみんな聴きにくるのだ。
毎日利口でなんていられない。
灼熱でいたいのだ。
これでいいのだ。
夏の映画で思い出すのはアニメばかりだ。
おもひでぽろぽろ、トトロ、サマー・ウォーズ、時をかける少女、夏休みに見に行ったドラえもん。
青い空に白い入道雲さえ画面いっぱいにあれば夏の映画の8割は完成する。
その景色は実写よりアニメのほうがキラキラしてる。
不思議だけど、そうなのだ。
だから夏の映画はアニメのほうが印象に残る。
『子供はわかってあげない』という、沖田修一監督の新作映画を見た。
沖田監督の2009年の映画『南極料理人』が大好きだから。
南極を描いた映画のジャンルと、旨いご飯の映画のジャンルと、抑圧された環境のなかでもユーモアを忘れない映画のジャンルがあれば、堂々1位の傑作映画。
独特のリズム感で優しくて、でもイジワルで、面白くて。
すごい才能。
そんな監督の最新作。
もんどり打つようなキラッキラした映画だった。
青春映画の金字塔だよまったく。
主演の上白石萌歌さんは20年にひとりの天才だ。
たまにこういう才能が日本に出てくるから面白い。
コメディエンヌの才まである。
これは上白石萌歌さんの魅力をこれまでかと堪能する映画でもある。
ラストシーンの彼女のひと言なんて、あんたもう。
そのときの彼女の表情なんて、もう。
高校生に戻りたいなあ。
こんな娘に恋したいなあ。
ぼくまだ汗臭くないし。
あああっっっーーーーーーー!!!
って叫びたくなって、自転車スーパー漕いで漕いで漕ぎまくって、また叫んで、どでかコーラ一気飲みして、ぶあああーーーーー!!!ってやり場のないこのモヤモヤをどうしてくれようかと胸を掻きむしりたくなるような映画。
監督の作品はどのシーンも暗く描がかない。
常におだやかにのんびりのんびり。
でも観客は想像力でもってそれぞれのシーンに感情移入する。
豊川悦司さんもめちゃくちゃいい。
めちゃくちゃにいい。
登場してから映画の雰囲気がガラッと変わる。
その存在感たるや。
こんな空気を作れるんだなあと。
ふぃふぃふぃ、ふぃな?って力が抜けていく佇まいがとってもいい。
夏の映画はアニメだけじゃない。
日本映画は、いま、静かに燃え始めている。
・『子供はわかってあげない』の食事シーンを見ていたら無性にお腹がすいて、定食屋に駆け込んだ写真。青春はお腹がすくのだ。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
『子供はわかってあげない』は、8月20日全国公開、テアトル新宿では8月13日より先行公開中。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち) 落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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