1968年、カナダのケベック・ハルに生まれる。オタワ大学でカナダ政治学を、ラヴァル大学で国際関係を学んだ後、世界各地で撮った短編映画の優劣を競い合うテレビのコンテスト番組に挑戦し、優勝を飾る。その後、ドキュメンタリー監督などを経て『La Moitie gauche du frigo』(00年)で長編映画を初監督。『本当に僕じゃない!』(08年)でカンヌ映画祭ジュニア部門でグランプリを受賞。
アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、ロッテルダム映画祭観客賞を受賞するなど国内外で高い評価を得たカナダ映画『ぼくたちのムッシュ・ラザール』。アルジェリアからカナダのモントリオールへと移り住んだ冴えない男、ムッシュ・ラザールが、ある小学校の代用教員となり、心に傷を負った子どもたちと向かい合っていく物語だ。
担任の教師が突然、自殺し、動揺する子どもたち。だが、親や学校側はことを穏便にすませたいがために現実を遠ざけようとする。そのため、心の傷を癒やせず封じ込めるほかない子どもたちに、ラザールは真摯に向き合い、“事件”について語りかける。だが、そのラザール自身も、心に深い傷を負っており……。
傷ついた男が、同じく傷ついた子どもたちを必死で守ろうとする本作を監督したのは前作『本当に僕じゃない!』でカンヌ映画祭ジュニア部門グランプリを獲得したフィリップ・ファラルドー。人間が内に秘めた激しさを、優しい眼差しで見つめ、感動を呼ぶ。そんなファラルドー監督に話を聞いた。
監督:ええ。そのために多くのリサーチを重ねました。まず、2008年5月に、なぜ彼が祖国を出たのか理解しようと出身地アルジェに行きました。かなり前に、シリア、リビア、エジプト、チュニジアを訪れたこともあり、これらの土地は映画の主題の宝庫だと思いました。“アラブの春”が起きたのは、まさにこの映画を作り上げたときです。なぜ彼はモントリオールに来たのか? それは、他に選択肢がなかったからです。内線から数年経っても、アルジェリアは多くの問題に直面しています。
監督:まず、言語の問題です。実はレバノンも候補でしたが、この役はフランス語を習得しているだけではなく愛していなければなりません。なぜなら、癒やしのプロセスは、フランス語を話し、教え、愛し、読むことを通じて進むと考えたからです。また、忘れてはいけないのは、彼は非常に非宗教的な北アフリカからの移民だということです。これは私が意識的に決めたことです。彼はなによりもまず“解決”を探し求める“他者”の代表です。宗教的、道徳的な意味での解決ではなく、フランス語を教え、文学と関わり、コミュニケーションの基本において物事を解決しようとするのです。また、旧フランス植民地の出身者が、特殊なフランス語事情をもつ旧植民地でフランス語を教えるという皮肉もあります。
監督:人生において、悲劇やドラマが単独で訪れることはそれほど多くありません。本作のユーモアは淡く現実的です。アルジェリア人のキャラクターの素朴さは私たちを驚かせ、笑わせます。カルチャーギャップが巧妙に演じられるとき、そこには豊かなユーモアの余地があります。厳密に言えばギャグは使われていませんが、人生そのものがコミカルなんです。私に言わせれば、まったくユーモアのない映画なんてあり得ません。
監督:違います。むしろ、複雑な内情をはらむ“学校”という存在についての映画です。映画のなかで、とても切実な側面を描いています。それは、学校での子どもと大人の関係(触れ合い)の法制度化の問題です。(映画では、教師が生徒をハグしようとしたことから問題が起こったことが示唆されていますが)教師が背中に日焼け止めを塗ることすら禁止するルールを、私たちは確立してきました。もちろん、そのルールができた理由などは分かっていますが、結果的に、教師、両親、子どもたちの誰もが、思いやりや親しみを示すべき場面で慎重にならざるを得ません。この問題は非常にデリケートで重要な場面として映画のなかで描かれています。最初はささいな問題ですが、最後はハッキリと明示され、全編を通じて語られていくのです。
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